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Qt for MOSA: 航空宇宙・防衛向け FACE 準拠の Qt

作成者: Qt Group 日本オフィス|Sep 1, 2025 5:50:03 AM

Industry Insights Blog Series

本稿は「Qt for MOSA: FACE Conformant Qt for Aerospace and Defense Software」の抄訳です。 

 

Ben Minichino

Business Development Director, Aerospace and Defense

Cliff Bilbrey

Solutions Engineer II

Veli-Pekka Heinonen

Senior Product Lead

 

Qt Group は Qt for MOSA を発表しました。これは Qt Framework の FACE® 準拠版であり、開発者がミッションクリティカルなシステムや防衛プラットフォーム向けに、高性能かつ多機能な HMI を開発できるようにするものです。

現代の防衛システムには、プラットフォームを問わずシームレスに動作できる高品質なソフトウェアが求められています。従来、多くのシステムはクローズドで独自仕様のアーキテクチャに依存しており、ベンダーロックインを招き、技術統合を困難にしてきました。防衛技術がますます複雑化する中で、レガシーシステムは柔軟性の欠如により対応しきれないケースが増えています。
こうした課題に対応するために導入されたのが、MOSA(Modular Open Systems Approach) と FACE(Future Airborne Capability Environment) です。これらのオープン標準は、モジュール性移植性相互運用性を重視し、オープンアーキテクチャを推進することで、迅速なアップグレード、コスト削減、ベンダー依存の低減を実現します。

モジュラー型オープンシステム・アプローチ(MOSA)

MOSA は米国国防総省(DoD)が義務付けている戦略であり、軍事システムにおけるオープン標準とモジュラー設計原則の活用を重視しています。MOSA の目的は、独自仕様やベンダーロックインへの依存を減らすことで、より柔軟でコスト効率が高く、相互運用性のある防衛システムを構築することにあります。これは米国法により、すべての主要な防衛調達プログラムに適用が義務付けられており、イノベーションや迅速な技術導入を可能にする重要な推進力となっています。

将来の Airborne Capability 環境 (FACE®)

FACE® 技術標準は、The Open Group が運営する FACE コンソーシアム によって管理されており、MOSA の原則に沿ったソフトウェア仕様の集合です。オープンアーキテクチャ標準、相互運用性、迅速な統合を推進することで、FACE® 技術標準は俊敏性、革新性、コスト効率を促進します。MOSA が防衛調達全体におけるモジュール性とオープン性を推進する高レベルの指針であるのに対し、FACE® 技術標準はその原則を実装するための詳細なソフトウェアガイドラインを提供し、システムが MOSA の 相互運用性・移植性・効率性 の目標を満たすことを保証します。

FACE® 技術標準は、ソフトウェアの再利用性、スケーラビリティ、そして異なる航空宇宙・防衛プラットフォーム間での統合を容易にする、標準化されたソフトウェアアーキテクチャを策定しています。

よってFACE® 技術標準と MOSA は、硬直的でモノリシックな防衛システムから、より柔軟でコスト効率の高いソリューションへの転換を示しています。複数のベンダーから提供されるソフトウェアコンポーネントを相互に連携可能にすることで、FACE® 技術標準は統合作業を簡素化し、長期的なコスト削減に貢献します。

航空宇宙・防衛分野におけるQt

先日[1] でも触れたように、Qt Framework は航空宇宙・防衛分野の幅広いアプリケーションを支える重要な役割を果たしています。たとえば、ドローンの地上管制ステーションやレーダーシステム、地上車両、シミュレーションプラットフォーム、さらには自動操縦システムにまで利用されています。Qt Framework はモジュール性とオープン性を核に設計されており、MOSA の原則に則ってサードパーティ製品との統合やシームレスな相互運用を容易にします。
ただし、このアプローチを米国国防総省(DoD)の調達において実証するためには、FACE 準拠が必要となります。

FACE® Technical Standard は非航空分野のプログラムにも大きく拡大してきましたが、HMI における高度なグラフィックス機能のニーズについては、まだ十分に対応されていません。

これらの要件に対応するため、Qt for MOSA は FACE® Technical Standard に準拠していることの認定を受けました。

Qt for MOSA — 概要

Qt for MOSA は、FACE Technical Standard Edition 3.2 の General-Purpose Profile に準拠しています。Qt for MOSA は商用ユーザー向けのみに提供され、Extended Security Maintenance(拡張セキュリティ保守)および Extended Support(拡張サポート)が含まれています。これは Qt Framework のサブセットであり、Qt Quick、Qt Widgets、QML などの主要モジュールを含みます。また、FACE Operating System Segment の上位抽象化を提供し、防衛関連の開発者が以下のようなミッション・クリティカル用途に向けた画面依存型ソフトウェアを迅速に構築できるよう支援します:

  • ミッションシステムソフトウェア: 目標追跡、ミッション計画、兵器システム制御

  • センサーおよび監視システム: レーダー、赤外線、EO/IR システム

  • 航法および飛行制御システム:高度な地図レンダリング、地形認識オーバーレイによるミッション機能強化

  • 地上支援およびミッション計画システム: 空中システムとコードを共有するデスクトップまたは携帯型のミッション準備ツール

防衛分野の UI は通常、最低限のものにとどまっており、多くの可能性がまだ活用されていません。Qt を使うことで、システム構築者やインテグレーターは、これまでこの分野では実現できなかった新たな柔軟性と革新性を手に入れることができます

一般的に、Qt for MOSA は Qt Framework が持つパワーと効率性――クロスプラットフォーム機能、モダンな C++ 機能、先進的なグラフィックス、高効率なデータ処理など――を、FACE® Technical Standard で定義された共通オペレーティング環境にもたらします。これにより、その環境での開発は、他の環境や産業での開発と同様の感覚で行えるようになります。

Qt for MOSA は Qt Framework の主要機能の多くを保持しており、その例として以下が挙げられます:

  • Qt Widgets を用いた静的でデスクトップスタイルの UI、または Qt Quick を用いた組込みシステム向けに最適化されたモダンで動的な UI の開発

  • シグナル&スロットによるイベント駆動型プログラミング

  • C++ 言語ランタイムに依存しない、リフレクションや非同期関数呼び出しを可能にする Meta-Object Compiler (MOC)

Qt for MOSA は、FACE® Technical Standard によって定められた共通運用環境に、Qt Framework の持つパワー効率性を提供します。

さらに、ライブラリから得られる利点に加えて、Qt を中心に開発された各種ツール(例:Qt Creator、BootToQt など)により、デバッグ、プロファイリング、テスト、ターゲットハードウェアへのデプロイといった共通作業をチームで効率化することができます。

Qt for MOSA の準拠パッケージには、FACE® Technical Standard に基づいて Qt アプリケーションを作成する方法を示すサンプルアプリケーションも含まれています。

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