この記事はAchieving full code coverage of Unit Tests written with Google Test の抄訳です。
本稿では、Google Testフレームワークで記述されたユニットテストを、The Qt Companyが提供するコードカバレッジ分析ツールCoco と統合する方法をご紹介します。
ここでは大きく分けて、テストスイート全体のコードカバレッジを取得する方法と、各テストケースのカバレッジを個別に測定する方法をご紹介します。テストケースの内容に変更は必要なく、必要な作業はテストファイルの末尾に数行のコードを追加するだけです。
Google Testとは何か?
Google Test は、xUnit ファミリーのテストフレームワークに属する、C++で記述されたソフトウェア向けのユニットテストフレームワークです。このようなフレームワークでは、テストをテストケース として記述し、同様のテストケースをまとめてテストスイート を作成するのが通例です。
Google Testの特徴まとめ:
xUnitテストフレームワークである
テストディスカバリ機能
豊富なアサーションセット
ユーザー定義アサーション
Deathテスト機能
致命的な失敗と致命的ではない失敗
値パラメータ化テスト
タイプパラメータ化テスト
テスト実行のための様々なオプション
XMLテストレポート作成
Google Testは、クラスや関数に対するユニットテストを作成する際に使用されます。テストしたいオブジェクトに対してテストスイートを記述し、それらとテストスイートをコンパイルしてリンクして実行可能なテストプログラムを作成することで、テストを実行することができます。
今回使用する例
Google Testの仕組みとコードカバレッジツールとの統合方法を説明するにあたり、今回は簡単な例を使用したいと思います。
テスト大量となる関数は、引数として受け取ったファイルパスの簡略化を行うものです。
親ディレクトリ参照(".")を含むUnixスタイルのファイルパスを受け取り、それらを取り除いたパスのバージョンを返す関数canonicalpath()がテストの対象です。
この関数では、「abc/.../de」というパスは「de」に簡略化され、「.../abc」は変更されずに返されます。
canonicalpath関数の内容
関数canonicalpath() は、ファイル canonicalpath.cppの中で以下のように定義されています:
#include "canonicalpath.h"
#include <vector> #include <regex> #include <iostream> std::string canonicalpath(const std::string &path) { if (path.length() <= 1) return path; std::string sep = path[0] == '/' ? "/" : ""; std::vector<std::string> entries; std::smatch match; std::regex re("[^/]+"); for (auto p = path; std::regex_search(p, match, re); p = match.suffix()) { if (match.str() == ".." && !entries.empty() && !(sep == "" && entries.back() == "..")) entries.pop_back(); else entries.push_back(match.str()); } std::string cpath; for (auto s: entries) { cpath += sep + s; sep = "/"; } return cpath; }
canonicalpath.hというファイルもありますが、そちらの内容はとてもシンプルなので、ここでは説明を割愛します。
単体テストコード
テストの内容は以下のファイル、canonicalpath_test.cpp に定義されてます:
#include "canonicalpath.h"
#include <gtest/gtest.h> TEST(canonicalTests, relativePath) { EXPECT_STREQ(canonicalpath("abc/de/").data(), "abc/de"); EXPECT_STREQ(canonicalpath("abc/../de").data(), "de"); EXPECT_STREQ(canonicalpath("../../abc").data(), "../../abc"); EXPECT_STREQ(canonicalpath("abc/../../../de").data(), "../../de"); EXPECT_STREQ(canonicalpath("abc/../de/../fgh").data(), "fgh"); } TEST(canonicalTests, absolutePath) { EXPECT_STREQ(canonicalpath("/abc/de/").data(), "/abc/de"); EXPECT_STREQ(canonicalpath("/abc/../de").data(), "/de"); EXPECT_STREQ(canonicalpath("/../../abc").data(), "/abc"); EXPECT_STREQ(canonicalpath("/abc/../../../de").data(), "/de"); EXPECT_STREQ(canonicalpath("/abc/../de/../fgh").data(), "/fgh"); } TEST(canonicalTests, boundaryCase) { EXPECT_STREQ(canonicalpath("").data(), ""); EXPECT_STREQ(canonicalpath("/").data(), "/"); } int main(int argc, char **argv) { ::testing::InitGoogleTest(&argc, argv); return RUN_ALL_TESTS(); }
このファイルには、3つのテストケースとmain()関数からなるテストスイートが含まれています。
TESTマクロは、最初のパラメータとしてテストスイート名を持ち、2番目のパラメータとしてテストケース名を持ちます。マクロの後の中括弧内のコードはテストコードです。テストケースの内容はすべて、canonicalpath()の戻り値と期待される結果をEXPECT_STREQマクロで比較しています。EXPECT_STREQ は char* 引数を必要としますが、canonicalpath() は std::string を返すので、その戻り値はメンバ関数 data() を使って char* に変換されています。
この3つのテストケースには、相対パス、絶対パスのテストに加え、非常に短いパスをテストデータとするテストが境界テストとして含まれています。
また、上記のファイルにはmain()関数を明示的に定義しています。Google Testには適切なmain()関数を提供するライブラリがあるため、すべてのテストプログラムにmain()関数が必要というわけではありませんが、Cocoの全機能を使用するために後でmain()関数内にコードを記述する必要があるため、ここでは明示的にmain()関数を定義しています。
テストプログラムのコンパイルと実行
Google Testは、特定のプラットフォームやコンパイラに依存しません。
そのため、すべてのシステムに対するコンパイル方法をここですべて紹介することはせず、その点はGoogle Test のドキュメント に説明を譲ることとします。
しかし、具体的な例を見ておくことはやはり有益であるため、ここではUnixでの例について見てみましょう。こちらの例では、テストをビルドして実行するための最小限のMakefileは次のようなものになります:
all: canonicalpath_tests
tests: all ./canonicalpath_tests canonicalpath_tests: canonicalpath.o canonicalpath_tests.o g++ $^ -o $@ -lgtest -lpthread clean: rm -f *.o
上記が行っている内容は、2つのソースファイルをコンパイルして正しいライブラリとリンクさせるという単純なものです。
[==========] Running 3 tests from 1 test case. [----------] Global test environment set-up.
[----------] 3 tests from canonicalTests
[ RUN ] canonicalTests.relativePath
[ OK ] canonicalTests.relativePath (1 ms) [ RUN ] canonicalTests.absolutePath [ OK ] canonicalTests.absolutePath (1 ms) [ RUN ] canonicalTests.boundaryCase [ OK ] canonicalTests.boundaryCase (0 ms) [----------] 3 tests from canonicalTests (3 ms total) [----------] Global test environment tear-down [==========] 3 tests from 1 test case ran. (3 ms total) [ PASSED ] 3 tests.
他のビルドシステムやプラットフォームでは厳密なビルド方法は異なるものの、出力は同じとなるはずです。
Cocoと連携させる
ここで、C、C++、SystemC、C#、Tcl、QMLのコードに対応したクロスプラットフォーム、クロスコンパイラのコードカバレッジ分析ツールであるCoco を使って、テストとプログラムのコードカバレッジを測定してみましょう。
プログラム全体をカバーする
Google Testはプラットフォームやビルドシステムに依存しないので、それぞれのビルドシステムに対応するコードのインストルメンテーションの方法については、ここではあまり詳細には触れません。
Cocoのドキュメントには、CMake(英語) 、QMake(英語) 、Visual Studio(英語) 、Gnu Make(英語) 、Microsoft NMake(英語) 、その他いくつかのビルドシステムでビルドされたプログラムに対してカバレッジを計測する手順が含まれているので、お使いのビルドシステムに対応する章をご覧いただくことで、Cocoを有効にしてテストをコンパイルしていただくことができます。
Unix Makefileの場合、最も簡単な方法はすでにチュートリアルの1つ(英語) で紹介されています。ここでは、コードカバレッジを有効にしたコンパイルを実行するために必要となるすべての環境変数を、シェルスクリプトで設定しています。このスクリプトはinstrumented というファイル名で保存されます。以下はinstrumentedの内容です。
#! /bin/bash # Cocoのインストールフォルダにあるコンパイララッパーへのパスを追加 export PATH=/opt/SquishCoco/wrapper/bin:$PATH # --cs-onは、アプリケーションのビルド時にCocoのカバレッジ計測を有効とするためのオプション。 # Cocoでは、COVERAGE_SCANNER_ARGSにオプションを指定することができる。 export COVERAGESCANNER_ARGS='--cs-on' # --cs-exclude-file-abs-wildcardは、Cocoのカバレッジ計測に含めたくないファイルのパスを指定する。 export COVERAGESCANNER_ARGS+=' --cs-exclude-file-abs-wildcard=*/canonicalpath_tests.cpp' "$@"
これを使えば、「./instrumented make clean tests」を実行することでテストを再ビルドし、Cocoのカバレッジ計測を有効にした状態で再び実行することができます。
この手順を踏むことで、canonicalpath_tests.csexe とcanonicalpath_tests.csmes という2つの新しいファイルが生成されます。最初のファイルにはカバレッジの測定値が、2番目のファイルにはその測定値を解釈するためのデータが含まれています。この2つのファイルをそれぞれ.csexe ファイルと.csmes ファイルと呼ぶことにします。
他のビルドシステムでも、詳細は大きく異なるものの、常にCoverageScannerフラグ(英語) の設定と完全な再コンパイルを行う処理を含める必要があります。
フラグ --cs-on はコードカバレッジの測定を有効にし、 --cs-exclude-file-abs-wildcard=*/canonicalpath_tests.cpp はテストケースの定義のあるファイルをコード・カバレッジ測定の対象から除外しています。今回は、 canonicalpath.cpp のコード・カバレッジの結果だけに関心があるためです。
※Windowsシステムでは、カバレッジファイルの名前は、canonicalpath_tests.exe.csexe とcanonicalpath_tests.exe.csmes となります。
各テストのカバレッジを個別に測定する
現在の設定では、テストスイートのすべてのテストについて、canonicalpath() のコードカバレッジを一気に取得しています。
しかし、各テストのカバーしたカバレッジを個別に取得することで、コードのそれぞれの行がどのテストによって実行されたかを確認することも可能になります。
そのためには、CocoとGoogle Testの2つの機能を組み合わせる必要があります:
Cocoは、インストルメント対象のアプリケーションコードにライブラリ関数 を提供しています。これらを使って、アプリケーションはテスト名、その結果、また蓄積されたカバレッジ測定値を.csexeファイルに保存することができます。
一方、Google TestにはTestEventListenerクラスがあり、各テストケースの前後に特定の処理を実行したり、テスト名やその結果を取得したりすることが可能です。
Event Listenerクラス
これらの機能を使うには、canonicalpath_tests.cpp にCocoライブラリの関数を呼び出すTestEventListener のサブクラスを作成する必要があります。クラス定義は、ファイルの最後、main()関数の直前に置いています。以下が、クラス定義のコードです:
//インストルメントが有効な場合のみ、TestEventListenerのサブクラスを定義する #ifdef __COVERAGESCANNER__
class CodeCoverageListener : public ::testing::TestEventListener { public: virtual void OnTestProgramStart(const ::testing::UnitTest&) {}
virtual void OnTestIterationStart(const ::testing::UnitTest&, int) {} virtual void OnEnvironmentsSetUpStart(const ::testing::UnitTest&) {} virtual void OnEnvironmentsSetUpEnd(const ::testing::UnitTest&) {} virtual void OnTestCaseStart(const ::testing::TestCase&) {} virtual void OnTestPartResult(const ::testing::TestPartResult&) {} virtual void OnTestCaseEnd(const ::testing::TestCase&) {} virtual void OnEnvironmentsTearDownStart(const ::testing::UnitTest&) {} virtual void OnEnvironmentsTearDownEnd(const ::testing::UnitTest&) {} virtual void OnTestIterationEnd(const ::testing::UnitTest&, int) {} virtual void OnTestProgramEnd(const ::testing::UnitTest&) {} //テストケース開始時に実行される関数 virtual void OnTestStart(const ::testing::TestInfo& test_info) { __coveragescanner_clear(); std::string test_name = std::string(test_info.test_case_name()) + '/' + std::string(test_info.name()); //.csexeファイルにテスト名を記録する __coveragescanner_testname(test_name.c_str()); } //テストケース終了時に実行される関数 virtual void OnTestEnd(const ::testing::TestInfo& test_info) { __coveragescanner_teststate("UNKNOWN"); //.csexeファイルにテスト結果を記録する if (test_info.result()) { if (test_info.result()->Passed()) __coveragescanner_teststate("PASSED"); if (test_info.result()->Failed()) __coveragescanner_teststate("FAILED"); } //.csexeファイルにここまでの内容を保存する __coveragescanner_save(); } }; #endif
CodeCoverageListener クラスは、#ifdefと#endifブロックで囲まれており、コードカバレッジ計測が有効になっているときだけコンパイルされるようになっています。(シンボル __COVERAGESCANNER__ はCocoによって自動的に定義されます)
Cocoに限った話をすれば、メンバ関数OnTestStartとOnTestEndの実装があれば問題ありません。しかし、Google Testでは、TestEventListenerの多くのメンバー関数が純粋な仮想関数として宣言されているので、それらのすべての実装を提供しなければなりません。そのため、未使用の関数の実装は、クラス定義の冒頭のブロックに記述されています。
OnTestStart()関数ではまず、ここまで記録されたすべてのカバレッジカウンターをゼロにリセットし、ひとつ前のテストケースのカバレッジの内容が今回のテストケースの内容として記録されないようにしてします。
その後、テストケース名を .csexe ファイルに書き込みます。
上記の実装では、名前は「testsuite/testcase」という形式になっていますが、これを変更して独自の形式として定義することも可能です。Cocoは、記録されるテスト名に含まれているスラッシュを使用して、のちに登場するCoverage Browserでテストケースを階層的に表示します。
OnTestStop()は、テスト結果を.csexeファイルに書き込みます。結果は"PASSED"、"FAILED"、あるいは "UNKNOWN "としています。
main() 関数
新しく作成したCodeCoverageListenerクラスは、Google Testに登録する必要があります。これはmain()関数の中で次のように行われています:
int main(int argc, char **argv) { #ifdef __COVERAGESCANNER__ ::testing::UnitTest::GetInstance()->listeners() .Append(new CodeCoverageListener); #endif
::testing::InitGoogleTest(&argc, argv); return RUN_ALL_TESTS(); }
カバレッジ結果の確認
コードを再コンパイルして再度実行すると、.csmesと.csexeファイルが生成されるので、それをCoverageBrowserに読み込むことで結果を確認することができます。読み込みを行うと、以下のような結果が表示されるはずです。
左側の「Executions」ウィンドウには、テストスイートの名前とテストケースが表示されています。ここでは、テストケースがテストスイートの1つ下の階層に表示される階層ビューモードを選択しました。その右側にはテスト結果が表示されており、すべてのテストケースが「PASSED」となっています。
テストケースごとにカバレッジの測定値が分かれているので、「Executions」ウィンドウで選択した1つまたは複数のテストケースのカバレッジのみを確認することができるようになりました。上の画像では、テストケース「relativePath」のカバレッジのみを選択しています。
今回の例と同様のステップを踏むことで、他のGoogle TestプロジェクトもCocoでインストルメンテーションを行い、そのコードカバレッジを測定することができます。
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