Qt for MCUs 2.12 LTS リリース

このブログは「Qt for MCUs 2.12 LTS Released」の抄訳です。

Qt Groupは、Qt for MCUs 2.12 LTSの最新長期サポート版リリースを発表します。以前お知らせした通り、これは2026年に3.0を迎える前の2.xシリーズの最終リリースとなります。本リリースではパフォーマンスと安定性に重点を置いており、ユーザーやお客様が3.xへの移行前に、現在のプロジェクトを長期にわたり本リリースを基盤として運用できるよう設計されています。
本ブログでは、2.12リリースの主な特徴をご紹介するとともに、3.0および現在開発中のその他の注目すべき内容について、一部を先行公開しています。

グリフ レイアウト キャッシュで2倍の改善

グリフレイアウトの処理方法に大幅な改善が導入されました。グリフレイアウトキャッシュを導入し、段落レベルでシェーピングとレイアウト結果をキャッシュすることで、冗長なレイアウト処理を排除します。これにより、テキストレイアウト処理がより効率的に行われ、特に複雑なスクリプトベースのフォントが関与するテキストレイアウトにおいて、繰り返しのレンダリング処理を削減し、FPSを大幅に向上させます。当社の実験では、テキストレイアウトを多用するアプリケーションにおいて、100%以上のパフォーマンス向上を確認しております。

テキストキャッシュは依然として全体的なパフォーマンス向上において最も重要な役割を果たしますが、グリフレイアウトキャッシュは特に、プリンターやオーブンディスプレイなどの家電製品で典型的な、動的テキストの頻繁な再レイアウトを必要とするアプリケーションのパフォーマンスを向上させます。

詳細については、Qt for MCUs フォントレンダリングのドキュメントをご参照ください。

Infineon TRAVEO T2G における QSR 2.2 リリースによる機能安全サポート

Qt for MCUs は、FuSa 準拠の Qt Safe Renderer モジュールとの統合を完了し、正式に技術プレビュー段階を終了いたしました。本実装は、インフィニオン Traveo T2G CYT3DL バリアント上で最新の QSR 2.2 リリースを用いてテストおよび検証済みです。本ソリューションは認証取得を予定しております。

主な改善点として、ハードウェアアクセラレーションによるSafe Itemのレンダリングが挙げられ、性能とコンプライアンスの両立を実現しています。同時に、統合プロセス全体が合理化され、開発者が安全なリソースを手動で追加する必要がなくなりました。アプリケーション開発中にツールが自動的に処理します。

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安全性の高いアイテムおよびアセットの自動管理を実現するため、一連の設定パラメータが導入されました。詳細については、qmlproject および 安全重要性のあるUI開発マニュアルをご参照ください。この統合を実証するため、QSRリリースの一部としてサンプルアプリケーションも提供されています。

詳細につきましては、公式のQt Safe Renderer 2.2リリース記事をご参照ください。

より柔軟な設定が可能な便利な更新機能

製品は基盤となるハードウェアよりもソフトウェア主導型になりつつあり、消費者はソフトウェアの定期的な更新を期待しています。Qt for MCUsでは現在、ソフトウェアの重要かつ静的な部分と、より柔軟に設定可能な動的な視覚的要素とを切り離す仕組みの導入を開始しました。本シリーズの機能の一つとして、翻訳データ用の特定メモリ位置を容易に設定できる点が挙げられます。これにより、マイクロコントローラ上でフォントデータ一式をまとめて保存する代わりに、地域固有のローカライズを施した多言語対応製品を構築でき、リソースを大幅に節約できます。また、接続プラットフォームとの連携により、無線更新(OTA)も格段に便利になります。

MCU.Config.translationStorageSection パラメータをqmlproject構成に導入することで、この機能をシームレスに実現します。

将来的には、Qt Quick Ultraliteにさらに動的なプロパティが導入され、最小限の更新で外観や操作感を容易に設定できるようになります。これにより、真にソフトウェア定義された製品を実現することが可能となります。

Zephyr サポート更新

Qt for MCUs は、Zephyr OS バージョン 4.1 のサポートを開始しました。サポート対象の Tier-1 プラットフォームは全て、このバージョンで更新および検証が完了してしています。

主要なZephyrベースのIoTエッジプラットフォームをサポートする取り組みの一環として、NXP FRDM RW612プラットフォームのZephyr 4.2対応をTier-3サポートとして追加しました。これらは、優れたUI/UXを備えたエッジデバイスを構築するための重要なプラットフォームです。以下は、シンプルなQt shapesサンプルからの指標データです。

Qt for MCUsの次のリリースでは、Zephyr 4.3のサポートが追加される予定です。

プラットフォーム更新

  • インフィニオン TRAVEO T2G では、オンザゴー JPEG 画像処理、パス線描画、およびメモリ管理の面で大幅な改善がなされました。また、Squish GUI 自動化テストをサポートするため、デバイスリンクが有効化されました。
  • Infineon TRAVEO T2G CYTD4EN (C-2D-6M-DDR) デバイスがTier-1プラットフォームとして追加されました。
  • RISC-VベースのEspressif ESP32-P4 がTier-3プラットフォームとして完全にサポートされるようになりました。
  • ルネサスのR-CARプラットフォーム(M3/E3)ポートは、最新のQt for MCUsバージョンに更新され、ハードウェアアクセラレーションによる角丸矩形サポートが追加されました。これによりFPSが大幅に向上します。JPEGハードウェアデコードやベクターグラフィックスアクセラレーションサポートのさらなる改善も計画されています。
  • 各種MCU SDKが最新バージョンに更新されました。

マイクロコントローラ上の地図とナビゲーション

以前お約束した通り、ユーザーの皆様に向けて非常に興味深い取り組みを進めてまいりました。二輪車や三輪車といったマイクロモビリティ製品、ならびにウェアラブル機器の要件に対応するため、インフィニオン社との共同開発により、マイクロコントローラ上で最先端のネイティブ地図およびナビゲーション体験を提供するリファレンスソリューション「Navia」を開発しました。

このリファレンスソリューションは、公式リリース2.12の一部ではなく、当社のコア製品を基盤として構築されています。Mapbox、Google、OSMマップなど、複数の地図プロバイダーとの連携機能を備えてます。特徴は以下の通りです。

  • Qt Location API によるオフライン地図レンダリング
  • ジオ・ポジショニングとポイント・オブ・インタレスト
  • 完全なルートレンダリングAPI
  • ターンバイターンのオフラインナビゲーションAPI
  • デイ・ナイトモードと 2.5 次元地図
  • 地図のOTAアップデートとストレージ管理
  • 参考コンパニオンアプリ

このソリューションは、Infineon TRAVEO T2G ファミリーのデバイスで利用可能です。今後、他の業界関連プラットフォームへの機能拡張に向けて取り組んでいく予定です。詳細についてはお問い合わせください。

3.0の今後の展望

マイクロコントローラがグラフィックス用途で主流となる主要産業の要件に対応するため、より包括的なGUIフレームワークとなるべく、フレームワークの再構築とモジュラー性の強化を進めています。これにより、ユーザーは必要な機能のみを選択・利用できるようになり、メモリ消費量とコードのフットプリント削減に寄与するとともに、オプションモジュールの追加も可能となります。QML APIの廃止や大幅な見直しは予定されていませんので、2.xアプリケーションからの移行はよりスムーズに行える見込みです。包括的なガイドも提供されます。

また、C++17標準へのメジャーバージョンアップを計画しており、CRA準拠に向けた高度なセキュリティ機能の一部を活用する予定です。

リソース制約のあるハードウェア上で構築されるデジタル製品において、接続性は重要な要素です。HMIとコンパニオンアプリ間のデータフローをBLE接続で効率化するソリューションの開発を進めております。

Qt for MCUs 3.0は完全なCRA準拠リリースとなり、2026年半ばに提供予定です。それまでの間、バージョン2.12の変更点の詳細は変更履歴でご確認いただけます。

最適化された組込みアプリケーション向けに、Qt for MCUs 2.12を今すぐ導入ください

既にQt for MCUsをご利用の方は、インストールフォルダ内のQtメンテナンスツールよりバージョン2.12をダウンロードいただけます。新規の方はこちらをクリックして開始ください。新機能と改善点は、リソース制約のある組込みシステムに付加価値をもたらすよう設計されております。コメント欄にてフィードバックやご要望をお寄せください。


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